海外生活

腐敗する警察システムと変革の波

アメリカで今何が起きているのか?Part3

こんにちは、ムネです。

これまで2日に渡り、ジョージ・フロイドさんが死亡した事件について記事を書きました。

 

 

 

3日目の今回は、“腐敗する警察システムと変革の波”というテーマでお話しします。

昨日の記事で「根っこの問題はアメリカの司法制度と腐敗した警察システムではないか」というお話をしました。

間違って罪のない人に怪我を負わせたり、射殺してしまっても、Qualified Immunityによってほとんどの警察官が無罪になっているのが今のアメリカの現状です。

本来Qualified Immunityは、訴えられるかもしれないという恐怖心を取り払い、人々の安全を守る警察が正しく職務に専念できるようにと作られた法律です。

つまり使い方を間違わなければ、非常に理にかなった法律なのです。

それにも関わらず、なぜこれだけQualified Immunityが今問題になっているのでしょうか。

それはこの法律が善意ある警察官だけでなく、腐敗する警察官も守っているからなのです。

事件に関与した警官がたまたま腐敗していたのか?

“18”

この数字が何を意味しているかご存知ですか?

これはジョージ・フロイドさんを殺害した元警官デレク・チョーヴィン被告が今までに市民から受けた苦情の数です。

「軽蔑的な口調」「人を見下す様な言葉づかい」など、これほどまでに苦情が警察に届いていたのにも関わらず、彼が実際に指導を受けたのは2回のみ。

またジョージ・フロイドさんの事件現場に居合わせた他3人の警官の内の1人、トウ・タオ元警官は2017年に「必要以上の暴行を加えた」として起訴されており、ミネアポリス市が25,000ドル(約300万円)の和解金を払っています。

妊婦の彼女と道を歩いていた被害者の男性は、タオ元警官ともう1人の警官によって家族の1人が事件に関与しているかもしれないと疑われ、何も知らないと答えたところ地面に投げつけられたり、顔面を蹴るなどの暴行を加えられた。

では今回の事件を振り返ると、ジョージ・フロイドさんの死亡に関与した警官3人、そしてデレク・チョーヴィン被告がたまたま腐敗した警官だったのでしょうか?

被疑者への“必要以上の暴行”は、実は事件が起きたミネアポリス市だけでなく、全米で起きています。

2014年ニューヨークではエリック・ガーナーさんが路上でタバコを違法販売したと疑われ警察に逮捕され、フロイドさんのように首を締め付けられ死亡しました。

この事件もビデオに一部始終が押さえられており、「息ができない」と繰り返しているのにも関わらず、警官がガーナーさんをの首を締め付ける姿が残されています。

この時ガーナーさんを死亡させた警官は起訴されずに解雇処分で終わっており、現場に居合わせた警官には何も処分がありませんでした。

同じく2014年、オハイオ州クリーブランドの公園で“おもちゃの銃”で遊んでいた12歳のタミア・ライス少年は、通報で駆けつけた白人警官2人によって射殺されました。

この時の映像も監視カメラが捕らえています。

この時問題になったのは、通報した人が「こども」「おもちゃの銃」と述べていたのにも関わらず、オペレーターから警官には伝えられておらず、現場に駆けつけてから“2秒”という速さで警官が銃の引き金を引いたことでした。

この時銃を発砲した警官も不起訴に終わり、解雇処分となりました。

ではなぜこのような警察による不必要の暴行、射発が多発しているのでしょうか?

問題点1:ジプシー警官

gypsy cop

タミア・ライスを射殺した警官ティモシー・ローエマンは前の職場で「情緒不安定」「簡単な指示さえ従えない」などと、当時の上司の記録に残されています。

ローエマン元警官は現場に出るのは不適合と判断され、前の職場を解雇される前にクリーブランド警察に転勤していたのです。

このように前の職場で問題があり、別の部署を転々とする警官は「ジプシー警官」と呼ばれています。

Crosscutによると2011年から2016年まで、229人の警官が何らかの問題があり解雇されたが、その内178人は別の部署で働いていたそうです。

ということは75%以上の“問題あり”と診断された警官は、他の部署では”問題なし”なのでしょうか。

もしあなたが職場から解雇されたからと言って、必ずしもあなたがその仕事に不適合かと言われるとそうではありません。

ただ警察が他の仕事と違うのは、「人の命を奪う力がある」ということを忘れてはいけません。

他の部署で“問題があり”解雇された警官が、資格を剥奪されるわけではなく、すぐに別の部署で問題なく働けるというシステムは間違っているのです。

資格を剥奪されるのは稀で、以下のことを行わない限り資格の剥奪には繋がらないそうです。

  • 嘘の証言をする
  • 違法薬物の使用または所持
  • 死刑以上の重罪を犯す

2011年から2016年までの5年間で、51人の警官が資格を剥奪されている(嘘の証言: 29人、違法薬物: 4人、重罪: 18人)。

前回お話ししたQualified Immunityが警官の資格剥奪を守っているのも事実です。

なぜ解雇された警官が新しい部署を探すのが、これほどまでに簡単なのでしょうか?

一つは人材不足の問題。

全ての部署で豊富な人材が揃っているわけではなく、逆にほとんどの部署が人材不足に陥っているのが現状です。

さらに新しい警官を雇うとなると、約1年間のトレーニングの間も給料(1人約40,000ドル)を払わなければいけないので、既に資格を持っている警官を雇う方が部署的には好都合なのです。

特に小さい街の部署ほど、以前の職場で解雇された警官が雇われやすいと言われています。

問題点2:De-escalation Trainingの欠如

calmdown

“De-escalation”とは警察が被疑者に対応する時に使われる、武力を行使しなくていいよう相手を落ちるかせる技術です。

例えば、人質や武器をもって立てこもる容疑者を落ち着かせ、降伏させるのもDe-escalationの一つです。

The Washington Postによると、2019年に警察に殺された数は1,004人。

もちろん半分以上のケースで、容疑者が銃を所持し、警察が銃を発砲せざるを得ない状況にいたことは間違いありません。

ただそれ以外のケースでは、容疑者が所持している武器が刃物であったり、または武器を所持していないのであれば、コミュニケーションスキルを使ったり、見方の援護を待ったりと、銃を発砲する必要はかったとも言えるでしょう。

警察官は現場に出るまでに、「マリファナ調査の仕方」「交通違反車両への対応」「武器の使い方」「銃撃戦での対応」などと平均600時間以上のトレーニングを受けます。

ただ問題は、34の州でDe-escalationのトレーニングが義務化されておらず、このトレーニングを行っていたのは34州のうち8州だけでした。

言ってしまえば容疑者への武器の使い方はとことん教わっているが、武器を使わずに容疑者を捕らえることは教わっていないケースがほとんどなのです。

De-escalationトレーニングが必ずしも警察による不必要な発砲を減らすとは限りません。

興奮している容疑者を説得するということは、自然と警官側のリスクが上がり、最悪の場合、罪もない警官の死に繋がってしまいます。

なので今日でもDe-escalationトレーニングの義務化は議論されていて、全米18,000部署で意見が分かれているのが現状です。

警察システムの改革が急がれる

それではどの様な取り組みが今の警察に必要なのでしょうか?

上記で述べたように、解雇された警官の処分方法、職務データの管理が必要ですし、暴力を使わず、いかに容疑者と接するかといったコミュニケーションスキルをトレーニングする必要性が急がれます。

De-escalationトレーニングを採用した部署では以下の様なデータが上がっています。

  • ダラス警察署ではDe-escalationトレーニングを採用した次の年、警察による力づくでの拘束が18%減り、「必要以上の暴力を振るった」という苦情が83%減った。
  • ラスベガス警察署では銃撃事件に巻き込まれる件数が2012年から2016年までに半分以上減り、10件に留まった。

今回のフロイドさんのように、抵抗していない人々への警察の必要以上の暴力が減るためにも、De-escalationトレーニングの必要性は十分あるのではないでしょうか。

また現在注目されているのは、“ボディカメラ”と言って警察官一人一人にカメラをつけ、行動を監視・管理すること。

body camera

ボディカメラを採用したカリフォルニア州リアルトでは、1年間で警官に対する苦情は88%減り、暴力を行使する確率も約60%減りました。

メリーランド州ボルティモアでボディカメラのお試し期間が終了した時には、ボディカメラを着けたいとの依頼が警察官から殺到したそうです。

警察官が常に監視されているとなれば、解雇、資格剥奪、または逮捕に繋がるため不必要な暴力は振るいませんし、銃を発砲した場合でも警察側の正当防衛を証明することが出来ます。

腐敗する警官から人々の命を守り、反抗する犯人から善意のある警官を守るためにも、今後ボディカメラは大きな役割を果たすのではないでしょうか。

終わりに

警察による必要以上の暴力、人の命が奪われないよう、警察システムの変革が急がれます。

ジョージフロイドさんの事件を受けて、警察に対する信頼は底辺に落ちているのが現状です。

警察への信頼を取り戻し、警察になりたいと憧れる子供を増やし、魅力のある仕事にするためにも私たちが積極的に警察の変革に協力することが大切なのではないでしょうか。

最終回は、「黒人差別をなくす為に私たちが出来ることとは」というテーマでお話しします。

それでは。

 

引用文献一覧

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ムネ

ネバダ州立大学ラスベガス校卒。現地の会社からE2ビザを取得しラーメン屋店長になるも、2年後にコロナで解雇。ロスに引っ越すもそこで不法滞在となる。日本への一時帰国を経て現在はサンディエゴのレストランで働いています。 Facebookページから最新記事をお知らせ
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