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【なぜ警察は人を殺しても無罪になるのか】アメリカ司法制度に潜む問題点とは?

アメリカで今何が起きているのか Part2

こんにちは、ムネです。

昨日の記事では、抗議デモが続くロサンゼルスの街の現状やビジネスの影響についてお話ししました。

話を振り返ると、アメリカで現在も続く抗議デモの引き金となったのは、白人警官が黒人男性を死亡させた事件。

全米で非難の的となっているのは、身柄が拘束されたフロイドさんの首を膝で圧迫し、息が出来ないと叫んだいたのにも関わらず8分以上も続けたことでした。

その事件現場の一部始終がカメラに押さえられ、全米市民が激怒し抗議デモが始まりました。

実はこういった警察による“過度の暴力”は以前から問題視されており、その被害に多くあっていたのが黒人市民(特に若い男性)だったのです。

もちろんアメリカで黒人に対する人種差別が日常茶飯事のように行われているのは認めますが、事件の真の問題点は“アメリカの司法制度と腐敗した警察システム”にあるのではないかとみています。

そこで2日目は、警察による不必要な暴力や殺人を保護している”Qualified Immunity”という法律について説明します。

Qualified Immunityとは

クオリファイド

”Qualified Immunity”

アメリカ在住歴が長くてもこの言葉を知っている人は少ないのではないでしょうか。

日本語ではこのように訳されています

Qualified Immunity(クオリファイド・イミュニティ):
正当な資格があるために責任が免除になること

引用:英辞郎 on the WEB

Qualified Immunityは1982年に最高裁判所が作った法律で、警察を含め、政府機関で働く職員が法律を犯したとしても、責任を免除される仕組みです。

罪人を捕まえ、世の中の治安を守るために警察にこのような権力が認められているのは正しいことです。

「もし間違って誰かを逮捕してしまったら、自分が逮捕されてしまう・・・」

「出来るだけ訴えられない様に行動しよう・・・」

こんなことを一刻を争う現場に遭遇する警察が考えているようでは、それこそ人々の治安が脅かされてしまいます。

訴えられるかもしれないという恐怖心を取り払い、罪のない国民の安全を最優先し行動してもらうためにも、警察にとってQualified Immunityというのは無くてはならない法律だったのです。

今問題となっているのは、本当は国民を守るために作られた法律が、無罪の国民(特に黒人)が逮捕され、殺害されるなど、国民の安全を脅かす原因になってきていること。

もちろんQualified Immunityによって、警察の行動が全て無罪になるわけではありません。

警察側が悪いと判断された場合は、有罪判決を受けることもあります。

ではなぜこれほどまでに無罪の人が射殺され、警察側に非があるにも関わらず無罪判決に終わっているのでしょうか?

早稲田大学の研究資料によると、Qualified Immunityは以下の様に定義されています。

有効な令状に基づく,客観的にみて合理的な重要証人の逮捕および抑留については,逮捕機関が不適切な動機をもっていたとしても,その違憲性を争うことはできない。

政府職員は,①連邦法上の権利を侵害したときでも,②その権利がその当時明確に確立されたものであった場合を除いて,賠償責任を負わない。

当裁判所は,①②の判断のいずれを先行させるかは下級裁判所の裁量に委ねられていることを確認している

ここで注目したいのが、以下の記載。

① 連邦法上の権利を侵害したときでも

② その権利がその当時明確に確立されたものであった場合を除いて,賠償責任を負わない。

 

この文章を噛み砕くと、こう捉えることが出来ます。

① 無罪の人を殺害してしまった場合でも

② 過去に地方裁判所、控訴(こうそ)裁判所、または最高裁判所で、”同じ状況かつ同じ行為”で有罪判決を受けた事例がない場合、有罪にはならない。

 

逆を言えば、警察が有罪になるためには、“過去に起こった全く同じ事件”を見つけなければいけないのです。

いかにこの文章が、警察が有罪になるハードルを上げているのがお分かりでしょうか?

そしてQualified Immunityが警察の必要以上の暴力を許しているか、実際に起きた事件を元に見てみましょう。

10歳の子供の足に銃弾を放つ

2014年、保安官たちは(武装していない)容疑者を追っていた。

その男は6人の子供たちが遊ぶ家の裏庭へ侵入したので、現場に駆けつけた保安官たちは子供たちに地面に伏せる様に注意。

子供たちは全員地面に伏せたものの、一緒に遊んでいた(暴れてはいない)犬に向けて一人の保安官が発砲。

銃弾は犬には当たらず、地面に伏せていた10歳の子供の足に被弾。

裁判所は「子供の足に銃弾を当てると有罪になるという事例はない」としてQualified Immunityが適用された。

降伏している容疑者へ向けて警察犬を放つ

2014年、強盗の通報を受けた2人の警官は、通報人の地下室に隠れている容疑者を発見した。

容疑者は警察に見つかった後、地面に座り、手を上げて大人しく降伏していたのにも関わらず、警察は警察犬を容疑者に向けて放つ。

犬は容疑者の腕を噛み、彼は病院に搬送された。

実はこの事件の前にも同じく降伏している容疑者に向けて警察犬が放たれ、容疑者が大怪我を追ったことがある。

ただ裁判所は「今回のケースでは警察犬がよりトレーニングされており、警察官も犬を放つ前に容疑者に注意をした」としてQualified Immunityが適用され、警察官2人は無罪になった。

abcNEWSの調査ではこのようにQualified Immunityが適用され警察が無罪になったケースが今まで何千件とあるようです。

改正が求められるQualified Immunity

revise qualified ummunity

Forbesの調査では1982年から2017年までに最高裁までいった30件のQualified Immunityに関するケースのうち、Qualified Immunityが適用されずに警察側が有罪になったのは2件のみ。

特に2017年以降は警察寄りに判決が下される傾向にあるため、6月3日アメリカ連邦議会ではQualified Immunityの定義を変更、または撤廃を求める法案が出されています。

しかしQualified Immunityを撤廃しただけでは警察の暴走を止めることは難しいでしょう。

2014年UCLAの調査では今までの警察が払った賠償金の総額800億円のうち、実際に警察官が自分の財布から払ったのは0.02%ということが分かっています。

99.8%の賠償金は、私たちが払っている税金から支払われているのです。

またQualified Immunityが撤廃すると、警察側への責任が重くなり、もはや警察管になろうとする人が減るのではないでしょうか。

今回の事件を除き、善意ある警察が私たちの身の安全を守っているのは事実ですし、彼らの身を守るためにも正しく使われるQualified Immunityは必要なので、一早く改正が求められます。

Qualified Immunityを改正するために署名・寄付をする

こちらのサイトには6月8日時点で、約10万件の署名、寄付が集まっています。

いつ警察によるQualified Immunityの濫用や暴走が、私たち、そして私たちの子供たちに向くかわかりません。

今回の問題を見て見ぬふりは出来ませんしたので、少しでも法改正の助けになればと思い私も寄付させていただきました。

終わりに

今回の記事では、アメリカ司法制度”Qualified Immunity”の問題点について説明しました。

明日はアメリカの“腐敗する警察システム”についてお話ししたいと思います。

それでは。

 

引用文献一覧

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ムネ

ネバダ州立大学ラスベガス校卒。現地の会社からE2ビザを取得しラーメン屋店長になるも、2年後にコロナで解雇。ロスに引っ越すもそこで不法滞在となる。日本への一時帰国を経て現在はサンディエゴのレストランで働いています。 Facebookページから最新記事をお知らせ
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