帯広大谷高校、NIC International College in Japanを経て、現在はサンディエゴ州立大学(SDSU)で人類学を専攻する小野さくらさん。
幼い頃から海外に興味があったさくらさんは、高校生の時にアメリカ留学を経験し、自分の世界観が変わったと言います。
さくらさんが痛感した日本とアメリカの文化の違い、人類学の魅力、学校外での活動など、様々な分野のお話を聞きました。
もくじ
夢の高校留学
海外に興味を持ち始めたのはいつですか?
幼い頃から英語教室には通っていましたし、両親が旅行好きだったこともあり海外にはずっと興味がありました。
ずっと留学してみたいなと思っていて、高校2年生の時に1年間アメリカ・テネシー州の高校に留学したんです。
元々新しいことに興味が湧く性格だったので、親から離れて生活することに不安はありませんでした。
一度は留学してみたかったですし、“このまま日本にいたらダメだ”という感覚でした。
日本の英語教室でいくら勉強したところで、ここで成長するには限度があるなと感じでいたのかもしれません。
1ヶ月や3ヶ月だけ留学する選択肢もありましたが、短期留学に価値を感じなかったですし、それこそお金の無駄になってしまうと感じました。
アメリカではクラスについていくのが精一杯。
1年間の留学は不完全燃焼で終わってしまい、海外に対する興味がさらに湧きました。
授業がディスカッション形式で進むところや、生徒一人一人が意見を持ち発言しているところに惹かれたのは確かです。
高校卒業後に留学を決めた理由を教えてください。
1年間の留学では吸収できるものに限りがあり、色々な意味で中途半端になってしまっていたのが嫌でした。
英語力も期待した程伸びなく、全然友達もできず悔しかったのがアメリカに再挑戦しようと思ったキッカケだったかもしれません。
もう一つの理由として大きかったのはスペイン語を学びたかったということ。
日本で学ぶことも考えましたが、やはりレベルにも限界があるし、何よりスペイン語を第一言語として話す人が多い、なおかつ英語も通じる環境はとても魅力的でした。
両親も私のやりたいことをすればと応援してくれました。
あとは日本に帰ってきた時の逆カルチャーショックも、アメリカ留学を決めたきっかけかもしれません。
日本では先生が一方的にクラスを進め、生徒は自分の言いたいことも言わず黙って座っている。
クラスで自分の意見を言おうものなら周りから変な目で見られる。
日本にいたときは感じませんでしたが、アメリカから帰ってきて、それがいかに異様な光景に見えたことか。
日本とアメリカ、どちらが学べることが多いかなと考えた時、アメリカ留学しか選択肢は残っていませんでした。
アメリカへ再挑戦、人類学との出会い
さくらさんがアメリカに来て一番大変だったことはなんですか?
高校生の時も苦労したように、私は友達を作るのが一番大変だったかもしれません。
地元の友達って子供の頃から知っているから、”友達を作る”っていう感覚になったことがなかったんです。
人見知りで初めて会う人と話すのも苦手でしたが、高校生の時のように後悔したくはありませんでした。
気分じゃないな、大勢の人がいるところには行きたくないなと思っていても、今日何かが変わるかも、今日から楽しめるかもしれないと信じ、積極的に遊びに参加しましたね。
家もアメリカ人と住んだほうが英語を話せると思い、女子大学生10人で暮らす家に引っ越したんですよ。
10人ですか?アメリカならではというか、珍しい家を見つけましたね。
クレイグスリストで見つけて、これは人見知りを克服するチャンスだと思ったんです。
私は自分の部屋にルームメイトがいて、トイレをまたいで別の部屋にもう1人住んでいました。
同じ年代の子ばかりだったので楽しかったですよ。
編入の関係でサンターバーバラからサンディエゴに引っ越しましたが、今でも6人で一軒家に住んでいます。
さくらさんはサンディエゴの大学で人類学について勉強していると聞きました。人類学とはどんな勉強か教えてもらえますか。
人類学はBiological Anthropology(自然人類学)、Archaeology(考古学)、Linguistic Anthropolog(言語人類学)、 Sociocultural Anthropology(社会文化人類学)、そして四つをまとめたApplied (応用人類学)の五つに大きく分かれます。
1つ目の自然人類学では人間の進化の過程を勉強します。
人類や霊長類の進化、そしてそれぞれの進化過程の体の作りからどんな生活をしていたのかという授業です。
進化の過程や人間の体を学ぶ上で最も大切な、生物の遺伝子や誕生といった基礎的な内容も勉強します。
顔の骨格や歯の本数から人間の年齢を割り出す勉強もしますし、それが2つ目の考古学に繋がります。
考古学では以前人によって使用されていた跡地、有名な例で言えばピラミッドやマチュピチュなどの遺跡などから発見されたもの様々な観点から分析してその時代の人々がどんな生活を送っていたのかを勉強しました。
3つ目の言語人類学では言語のパターンや使われ方などを分析から私たちの社会で起こっている様々なことを理解したり、言語が社会にもたらす影響、逆に社会が言語にもたらす影響などを勉強します。
そして4つ目の文化人類学では様々な文化について色んな観点から学びます。
例えばなぜこの民族は一夫多妻制なのか、その慣習が生まれた歴史的背景やそれがその民族にもたらす利益、そしてそこからどんな問題が生まれるのかなどを勉強します。
民族だけに限らず、国々で行われる慣習、価値観、考え方も文化人類学に当てはまります。
例えば、日本では男は男らしく、女は女らしくいるべきだという考えが根強く残っています。
この考え方はいつどういう時代背景から始まったのか、男女平等社会化が始まる前、そしてそれが進みつつある今、この考え方がどんな風に男女それぞれの生活に影響するのかなど様々な方面から日本の文化を分析することができます。
どの文化が良くて、あの文化は悪いという答えがないので、シンプルに文化の要素を分析したり、お互いの文化を尊重し合うことが大切だという着地点にたどり着く授業が多いですね。
これら4つの分野を勉強し、それぞれの分野を応用して実際に起こっている社会問題について考えるというのが5つ目の応用人類学です。
例えばアメリカに移住してきた南米の先住民達は場所によっては母国から存在が認められおらず、貧しい生活を強いられているためにアメリカに渡り、母国に残った家族に仕送りをして生活を助けている人もいます。
歴史的背景から言うと、アメリカ大陸では沢山の先住民達がヨーロッパからの植民地化によって住むところを追いやられ、英語またはスペイン語を話さないから、肌が黒いから、キリスト教信者ではないからなどという理由で迫害されていて、今もその考えが消え去っているとは言えません。
中には違法で移住してきている人もいて、最低賃金以下で重労働をさせられ、住む場所も決して良好とは言えない場所で生活をしている人は少なくないでしょう。
この悪烈な環境の中で休みなく働くことを想像してみてください。間違いなく体を壊すでしょう。
しかし、多くの人は病院に行き治療を受けることができません。何故なら通訳してくれる人がいないから。
彼らは南米から来ていると言っても先住民族で、スペイン語ではなく彼らの民族の言語で話します。
スペイン語の通訳はすぐに見つかっても、何百何千とある先住民族の言語の通訳はそう簡単には見つかりません。
さらに、アメリカの医療費は高い上に彼らは保険に入ることもできません。
そして何より医療機関にかかることで不法滞在していることが国にばれて強制送還されることをおそれているから。
例え不法滞在者であっても、人間として正当な扱いを受けている人達がどうすれば救われるのか。どのような手を差し伸べるのが彼らにとって一番なのか。
正解が1つではない課題をクラスで議論し、”What makes us humans? What does it mean to be a human?” (どのような要素が私達人類をつくりあげているのか?人間であるということはどういうことなのか?)という理解を深めた上で『少しでもみんなが平等に共存していける世界』を深く研究するのが人類学の面白いところです。
学年が上がるにつれてフィールドワークをしたり、クラス外での活動に参加できる機会も多くなってきます。
フィールドワークとはどんなことをするんですか。
分野によって分かれますが、考古学で言えば実際に人間の住んでいた跡地を掘って、出できたもののデータを集めて分析したり、原住民の人たちとともに生活し、言葉、食べ物、文化を理解し、自分の気づきを論文などにまとめる活動です。
ですが一度会うだけでは吸収できるものに限りがあるので、1~2ヶ月、大学院に進むと最低でも1年や2年間その民族と一緒に暮らして彼らの文化を研究する場合もあります。
最低でも1年!そんなに長い期間、原住民と暮らすんですか。
正直1年で分かることってかなり限られてます。1年や2年現地人と住んで本を書く人って沢山いますけど、個人的にはそんな短い期間で何を分かったつもりでいるんだろうって思っちゃいますもん。(笑)
もちろん彼らはきちんとトレーニングを受けているし、素晴らしい本を書いている人も沢山いるんですけどね。
アメリカに1年いても、アメリカの文化なんて分からないじゃないですか。
私の経験からすると最初の1年なんて環境に適応するので精一杯。
やはり余裕が生まれないと、文化を理解し吸収することなんて出来ないですよ。
4年アメリカに住んで、ようやくアメリカの文化やアメリカ人の考え方がわかるようになってきたかなと思います。
さくらさんは既にフィールドワークをされたんですか?
本当は夏にメキシコのオアハカという州に行って、先住民の人たちと1ヶ月暮らす予定でしたがコロナの影響で無くなってしまいました。
グアテマラとの国境沿いにある州で、メキシコの中でも一番先住民族の数が多いと言われています。
この街では多くの先住民の存在が認められていますが、やはりまだ様々な問題があるようです。
個人的に南米の民族に興味があり、たまたま学校のプログラムで見つけたのがキッカケでした。
南米の食べ物にも興味があったので本当に行きたかったので、残念です。
人間として生物学的には同じ生き物でも、文化が違うと全く異なる考え方をするところですかね。
なぜそんな考え方になるんだろう、彼らはこんな文化で育ってきたからなのか、この文化とこの文化が交わったからなのか、という風に点と点がどんどん繋がっていくのが面白いです。
色んな文化を勉強していると、国々に対する先入観が減ったり、自分の価値観だけでものごとを見る癖をなくす努力をするようになりました。
先入観というのはゼロにするのは人間である以上難しいですが、人類学を勉強し、相手の文化を理解できれば違う人種の人や国籍の人にも優しく出来るのではないでしょうか。
大学卒業後は人類学に関係することを仕事にしたいと思っていますか。
世界各地の文化や生活を見てみたいですね。
もし気に入れば、そこでずっと生活するのも面白いかもしれません。
自給自足の生活にも興味があるので、そういう生活をしている人々とも生活出来たらなと思っています。
ボランティアをしながらいろいろな文化を学ぶ経験もしたいと思っています。
仕事という視点で言うと、何らかの形で人の生活を豊かにする手助けが出来たらいいなとは思います。
海外だけでなく日本の遺跡や文化も好きですし、北海道で生まれた縁もあるのでアイヌ文化をもっと勉強し、世界に広めて文化を守るのに貢献したいですね。
学業以外に取り組んでいることはありますか。
絵を描いたり、手芸をしたり、料理をしたり… 気の向くままにやりたいことをやってはこれでお小遣い稼ぎはできないだろうかとたくらんでいます。(笑)
その中でも力を入れているのがヘナタトゥーといって、インドで魔除けや結婚式前の儀式として使われる、消えるタトゥーを描いています。
タイとかインでネシアに旅行に行った時にビーチ沿いでヘナタトゥーを知りました。
自分で描いてみたら意外と簡単だったので、友達へ描いてみたり、サンタバーバラにいた時はビーチ沿いで露店をやったりしました。
同年代の女の子だったり、子供にヘナタトゥーを描いたりして楽しかったですよ。
お客さんの中にはサンタバーバラで歌手をやっている人もいて、CDカバーのデザインをさせてもらいました。
将来はバックパッカーとして世界を旅したいと思っているので、この経験を生かして自分の生活を支えられたらと思います。
また書道も昔からやっているので、日本の和の心を書道、デザインとして海外の人に知ってもらいたいですね。
留学を目指している学生への言葉
これから留学したいと考えている人に向けて、なにかアドバイスはありますか?
当たり前のことを当たり前にできるかどうかですね。
勉強だったりだとか、仕事だったり、自分がしなければいけないことをやれるかどうかが、留学する上でも大事です。
やるべきことをやっていればきっと結果も付いてくるはずです。
ただ私自身、親に支援してもらっている身ですので、留学に絶対行ったほうがいいとは簡単には言えません。
あとは贅沢な悩みですが、知れば知るほど辛くなる現実も世界にはあります。
自分ではどうにも出来ないようなアメリカの貧富の差だったり、マイノリティーグループの方たちが受ける差別は本当に残酷です。
知らないほうが幸せだったということもあるので、アメリカに限らず覚悟して留学に望んでほしいですね。
このような問題は現在進行形で進んでいて、その環境で生活する中で、相手のこと(特にアイデンティティー)を尊重して行動することはアメリカでは特に重要だと思います。
さくらさんが思う、アメリカの良いところってどんなところですか。
アメリカは本当に個人主義だと感じます。
ありのままの自分、なりたい自分になれますし、周りもそれを応援してくれます。
「私これがしたい」と言えば「さくらならできるよ」って言ってくれることが多いです。
私の周りの女の子も「これが私よ」って自分を持って生活していて、「私はどんな人間になりたいんだろう」と本当になりたい自分を模索するキッカケになりました。
周りの目を気にせず自分自身に集中することで、本当になりたかった自分が見えてきます。
それに加えて、私の周りにはフェミニストの女子が多く、女性であることの強さ、誇らしさを学ぶことができました。
これは自分自身の存在を尊重して、「女だから」とか「女なのに」という女性を縛る否定的な概念からくる縛りから解放されることにも大きな影響があったかなと思います。
フェミニストと聞くと少し変な印象を抱く人も多いと思いますが、このフェミニスト思考は女性として、人間としての自信につながると思うので、女性のみなさんには留学を通してこうゆう考え方もあると知って欲しいですね。
男性でもフェミニストがいて、”Girl power (女性であることの強さ)"を支持する人もいます。
男女平等社会と言いつつも、女性の価値が過小評価され、まだまだ男性が中心となっているである日本で女性がもっと生きやすい環境を作る為に男性のみなさんにも女性をもっと尊敬・尊重するという文化に触れあってもらいたいですね。
個人の意見を尊重するべきだという考え方が、本当の自分を認めてあげることに繋がり、結果として周りの人を認めてあげることに繋がっているのかなと感じます。
でも間違ってる時はちゃんと間違ってるって言ってくれるところ、共感しないで自分の意見を言うことを恐れないところもまた個人主義のアメリカならではの魅力でもあります。
日本には謙虚という言葉があるくらい、周りに自分の否定したり周りに合わせないと社会的にうまくやっていけない文化があります。
たとえそれが建前だとしても、自然と自分を出してはいけない雰囲気につながっているのではないでしょうか。
私が育ったのは小さい町ということもあり、結構相手を否定する文化は強かったです。
先日地元(北海道・十勝)に帰ってきて、顔見知りの程度の人から「その鼻ピアスはヤンキーみたいだからやめたほうがいいよ!」って言われました。
もちろんよくない目で見られることは覚悟してましたが、あなたは私の何なんですか?何を知っているんですか?という気分になりましたね。日本には出る杭は打たれる文化はありますね。
逆に日本の良いところはありますか。
自分1人だけではなく、周りも幸せになって欲しいと、相手を思いやる心が強いところですね。
私のおばあちゃんが口癖のように「人に嘘をついちゃいけないよ」と言っていたように、自分さえ良ければそれで良い訳じゃなく、周りを第一に考えられる余裕が日本の文化にはあります。
新型コロナの感染がいまだに収らないこの世界で、そうゆう日本人らしさをみんなが意識すれば、大切な人を無くす人が減るんじゃないかと思います。
不要不急の外出はしない。自分だけでなく、出勤を強いられている人たちのいのちも考えて行動してくれる人が増えると良いですね。
インタビューを終えて
なぜアメリカに留学する学生が、こんなにも生き生きしているのか。
それはさくらさんが言うように、なりたい自分になれる環境がアメリカには整っているからではないでしょうか。
さくらさんと私は偶然にも同じ北海道・十勝出身。
もちろん彼女が言うように、良い所も沢山あるのですが、小さい街ほど先入観が強かったり、個性を否定されることが多いのです。
グループの輪に馴染めない学生や、日本を住みにくいと感じている人(特に女性)へ向けた、「あなたはあなたのままでいい」というメッセージからは、彼女ならではの苦悩、そしてもっと自分自身に向き合い、好きになってもらいたいという熱い思いが感じられました。
さくらさんの原住民と暮らす生活、世界を旅することなど、これからの彼女の活躍が楽しみです。
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