アメリカ日本人列伝

「英語力0からアメリカの大学教員へ」Penn State University助教授 岩月猛泰さん

岩月さん 笑顔

日本大学三島高等学校、日本大学を経てアメリカ留学を選んだ岩月猛泰(たけひろ)さん。

学生時代はスポーツばかりで勉強とは無縁だった彼がアメリカ留学を選んだのは、様々なドラマがありました。

スプリングフィールド大学で修士、ネバダ州立大学ラスベガス校で博士号を取得。

現在は先生としてペンシルバニア州立大学でスポーツ心理学を教える岩月さんに、これまでの歩みをお聞きしました。

スポーツ漬けの学生生活

日本ではどんな学生でしたか。

水泳、サッカー、テニスとスポーツばかりやっていましたね。中学生の時にテニスで良い成績を残し、実家の愛知から推薦で静岡の高校に行きました。

スポーツが昔から好きだったので、将来は高校で保健体育の先生になり、テニス部の顧問になるのが夢だったのを覚えています。

テニスが強くて保健体育の免許が取れる大学を探し、日本大学に入学し全国大会にも出場しました。

大学生活もテニスばっかやって、勉強なんて全然しなかったですね。

進路を考えた時に、テニスの顧問になる前に先生の勉強をしたいと思ったのと、学校で上にポジションに就くには大学院に行く必要があると知りました。

別に校長先生になりたかったわけではありませんが、選択肢は多い方が良いと思ったので大学院を意識したのはこの頃です。

大学院に進学してからはスポーツなしで、勉強ばかりしていました。

いつ頃からアメリカ留学を意識し始めたんですか。

大学院に通っている時に海外で研究発表会をする機会があり、私も英語でプレゼンテーションしたのですが、文章を読むことで精一杯でした。

英語なんてちゃんと勉強したことなかったし、当時のTOEFLは23点(120満点中)でしたからね。

悔しい気持ちでいっぱいで、この頃から英語をもっと話せるようになりたいという感覚が芽生えてきたんです。

日本で博士課程に進んで大学の先生になろうと思っていたのが、英語を話せるようになってアメリカで先生になりたいと思い始めました。

それでも選択肢が6こくらいあったので、1ヶ月くらいは悩みましたね。

アメリカ留学を選んだ1番の決めてはなんでしたか。

一言でいうならハイリスク、ハイリターンですね。

なんか分からないけど、可能性というか、伸び代が一番あるのがアメリカ留学じゃないかと。

2つ選択肢があったら難しい方を選べとよく言いますよね。やはり出来なかったことが出来るようになった時、新しい自分に出会えるチャンスなのではないでしょうか。

スポーツをずっとやってきたこともあり、なんか頑張ったらアメリカ留学もなんとかなるような感覚はありましたね。

夢のアメリカと立ちはだかる壁

アメリカに来て岩月さんが一番苦労したことはなんでしたか。岩月さん グラキャ二

24歳で留学し、周りの友達が社会人になり働いてる中、自分はまだ学生をやっているという後ろめたさですかね。

留学して最初の1年半は両親に金銭的な支援をしてもらっていましたし、24歳、25歳にもなりながら金銭的に自立できていない自分は情けなかったです。

あとは英語学校に行っている時が、留学生活で一番精神的にキツかったかもしれません。

修士課程や博士課程よりも語学学校に行っていた時が一番キツかったんですか。

はい、なんでかって語学学校に行く人の目的は様々ですよね。

ただ海外旅行感覚で来ている人、留学の準備に来ている人、その中で私のように英語がゼロのくせに博士課程を取りに来ている人なんかいませんでした。

やはりアメリカに来ている目的が周りと違ったので、同じ環境で自分のモチベーションを保つことが大変だったんです。

語学学校に行ったことのある人ならわかるのですが、毎週金曜日はクラスで「週末はなにをするのか」という会話、月曜日には「週末は何をしたのか」という会話をします。

当たり前のように周りは「友達と遊んだ」や「買い物に行った」という会話をしますし、最初は自分も同じようなことを言っていたので、「俺は本当に博士課程に行けるのかな」と不安でした。

英語学校なんて所詮9時から3時までなので、学校で勉強する時間なんてしれてます。

正直な話、私は3時から12時までの自由時間のほうが学校に行っているときより勉強したと思います。

起きている間はずっと勉強してたんですね。空き時間はどんな勉強をしたんですか。

自分1人で勉強だけするのは効率が悪いことはスポーツを通して知っていました。

勉強の合間をみて、気分転換に近所の公園で知らないおじさんとテニスをしたのも、今思えば英語力が伸びた要因ですね。

テニスも自分より上手な人とする方が上達するのが早いように、英語も上級者やネイティブと練習した方が上達は早いんです。

言ってしまえば悪いですが、英語学校に行っている生徒はテニスでいうと素人ですので、素人といくら練習しても上手くなるのには時間が掛かります。

テニスだけじゃなく、他のスポーツも同じです。子供といくらサッカーの練習したって、自分が上達するレベルには限界がありますよね。

それと一緒です。

英語学校は英語のレベルで言うと初心者しかいません。

学校の外では英語だけで言うとプロレベルの人しかいないので、学校外で活動する方が英語力は伸びますよ。

岩月さんは、あれだけ高いお金を払って英語学校に行く価値はないと思いますか?

もちろん人それぞれ目的は違いますし、私のように大学に入学するために語学学校に行くのが必須の場合だってあります。

でも語学学校に行く生徒は、学校に行けば英語が伸びるのは嘘だという現実を知っておくべきでしょう。

もちろん英会話スクールはビジネスでやっているのでそんなことは言わないですが、学校が終わってからの時間に何をしているかが、学校に行っている時間よりも重要です。

それと学校が終わってから、大学に行って何をするのかとか、先を見据えて行動できるかですね。

私は半年英語学校に行きましたが、正直半年でも長いと感じました。ほとんどの英語学校は同じようなことを繰り返すだけなので、英語学校は長くても半年行けば充分です。

もし1年間留学するチャンスがあったら、1年間英語学校に行くより、半年英語学校に行って、その後短大のクラスをとった方が英語力は伸びますよ。

英語学校は英語ができない人を支える場所、それに比べ大学は野放し。

英語が使えないと困るような状況に置かれなければ、大抵の人の英語は伸びませんからね。

英語学校に行くなとは言いませんが、英語学校に行っただけでは英語は伸びないぞと言う現実は知っておくべきです。

大学、修士課程、そして博士課程

大学ではスポーツ心理学を専攻したそうですね。どんな勉強なのか教えて頂けませんか。

岩月さん 学生スポーツのパフォーマンスには心理的要因が大きく影響します。

例えばプレッシャーのせいでいつもの調子が出なかったり、心の状態が不安定だと本来持っているパフォーマンスを出せません。

悪い影響だけでなく、緊張感の中だからこそ通常よりも良いパフォーマンスが出せることだってあるのです。

その他にもスポーツによって生まれる団結力であったり、負けた時の挫折感による成長など、スポーツをして得られる精神的効果を研究しています。

そう言われてみるとスポーツ心理学はスポーツだけじゃなく、私たちのライフスタイルに直結した勉強なんですね。語学学校の後はすぐ大学院に進学したんですか。

すぐに大学院に進みたかったのですが、英語力がまだ足りなかったこともあり、大学に行ってクラスを取らなければいけませんでした。

単位は必要なかったので聴講生という立場でしたけどね。

聴講生?聞き慣れなれない言葉ですね。

聴講生という立場で大学の授業を取ると、単位はもらえないのですが、クラスに落ちた、受かったということは教えてくれます。

私は3つのクラスを聴講生として受け、全部に受かったら大学院に行けますよという条件付きでした。

単位をもらえない分、学費は4分の1くらいしか払わなくていいんですよ。

なので英語力を伸ばしたい人、大学の単位を必要としていない人は聴講生としてクラスを取るのはおすすめです。

そんなシステムがあるのは知らなかったです。1学期大学に通った後、大学院に進んだんですか。

そうです、2年半を大学院で勉強しました。

1学期目は学費免除のポジションに入れませんでしたが、次の学期から教授のアシスタントの仕事をもらい、学費が全て免除になりました。

ただし学費が無料になる授業の数が3つまで、4つ目からはお金を払ってくださいという条件付きです。

もし2年で卒業すると4つずつクラスを取る必要があった為、学費全額免除で卒業するために3つずつクラスを取りました。

授業の他に3学期目からは日本語を教えるアルバイトをしたり、男子テニス部のヘッドコーチ(総監督)の仕事もやりましたよ。

日本語の先生、テニスのヘッドコーチとして週に40時間働きながら、授業も3クラス取っていたので精神的、肉体的にきつい時期もありましたね。

岩月さんのように学費免除で修士課程、博士課程を勉強する学生は多いんですか。

アシスタントになるまでの競争率も高いので、修士課程は少ないですね。

その代わり博士課程では7~8割の学生が学費免除で勉強しています。

むしろ全額払って博士課程に進んでいる人はもったいない。

学費も3年間で1500万円掛かりますし、教師になる時に競争相手は実務経験があるわけですから、「勉強だけしてました」では彼らに勝てないですね。

私が博士課程の時に大学でクラスを二つ教えていたのは学費免除もそうですが、それ以上に面接する時に有利になると思ったからです。

博士課程では8~9割の学生が実務経験を積んでいるので、実務経験の無い人はアメリカ人、日本人に関係なく面接時に不利ですね。

夢の教員へ

教員面接の流れを教えてください。岩月さん プロフィール

大学によっても競争率は変わり、通常は一つの枠に約30人が応募します。

例えばコロラドはアメリカ人がもっとも住みたい州として人気なので、ある大学では1つのポジションに100人の応募があったそうです。

これは異常なケースで、普通は1つのポジションに最低でも15人くらいは応募します。

基本的な面接はまず書類選考があり、その中から9人が電話もしくはテレビ電話面接に選ばれる。上位3人が大学に呼ばれて2泊3日で面接を受けます。

ここでの旅費、ホテル代、食事代、合計20万円くらいするのを全て大学が負担してくれます。

私は二つの学校で面接を受け、大学に着いた初日は4-5人の面接官とご飯を一緒に食べて終わりでした。

2日目は色んな人とミーティングが入ったり、昨日会った面接官と1時間くらい面接します。

面接の後はキャンパスの案内、人事部とお話し、模擬授業、研究発表や学生とランチを食べたりと様々です。

3人の学生が入れ替わりで面接し、全員が面接し終わってから合否の通知がきます。

働くにも留学生はビザが必要ですよね。教員になるとどのようなビザがもらえるのでしょうか。

私はH1-Bビザをもらいました。3年ごとの更新で最長6年まで有効です。

更に自分の場合はビザを更新する前にグリーンカードを学校が申請してくれます。

でもビザを出すか、グリーンカードをもらえるかは大学によって違いますね。

規模の大きい州立大学、もしくはハーバードのような海外の有名な研究者が働いているような大学は、留学生また外国籍の人の扱い方をよく知っています。

これは私の経験上、そして色んな人に話を聞いて間違い無いです。

アメリカには大学が4500校くらいありますが、ほとんどの大学が留学生の扱い方を知りません。

こういう学校は移民法に詳しい弁護士がいなかったり、ビザの申請は自分でやってくださいというケースもあります。

私が働くペンステイト(ペンシルバニア州立大学)はアメリカでは知らない人はいなくらい大学の規模が大きいので、海外の人が働く環境が整っていますね。

実際に大学で教員として働き、アメリカの労働環境の方が、日本よりも整っていると感じますか。

全てが日本より働きやすい環境だとは思いません。

こちらでは研究結果が優れないと解雇されます。日本ではそこまですぐに解雇はされません。

ただアメリカは全てが分業制だなとは感じます。

日本の大学の先生は入試の手伝い、スポーツチームの顧問、選手のメンタルケアなど、本業以外に色んな雑務をこなさないといけません。

アメリカでは教員としての仕事に時間が使えます。雑務をしなくていいぶん、その時間を研究に集中できるのは確かです。

アメリカの大学ではチームのコーチは、”コーチ”として外部から雇われるので、教員がコーチもやっているなんて考えられません。

まあそれは大学のスポーツがそれだけ人気でお金になるから、コーチは外部から雇えるのかもしれませんけどね。

アメリカの大学のスポーツチームは日本のプロ野球チームと同じ規模、またはそれ以上のお金で運営されていると考えるとわかりやすいかもしれません。

私のいるペンステイトはフットボールで全米でも3本の指に入るくらい人気のチームなので、フットボールだけで1年間の収益が60億円です。

まあこれはアメリカでも特殊なほうですが。

留学を目指している学生への言葉

岩月さん 講師

これからアメリカ留学を考えている人へ、伝えたいことはありますか?

英語を学ぶのではなく、英語で何かを学ぶという意識はもったほうがいいです。

アメリカ留学はお金が掛かるので、英語を学びたいのだったらフィリピンに行ったほうが賢い選択でしょう。

英語を学びたいだけならアメリカに来る必要はありません。

アメリカ留学で成長し、結果を出す人は、留学する前になにを勉強するかを決めています。

そしてスポーツでも同じように、成長するためには三つの要素があります。

一つ目は指導者。学校の先生でもいいし、チームの監督でもいいです。

2つ目は環境。そういう意味ではアメリカの大学の方が日本より学べる環境は整っています。

3つ目は個人のやる気。どれだけ他の要素が揃っていても3つ目が欠けていると成長しません。

逆に個人のやる気さえあれば、二つの要素はカバーできます。

例えばテニスの錦織圭選手だって12歳でフロリダのIMGアカデミーという将来が有望な選手が集まる環境に行きました。

個人のやる気もあったし、コーチも良かっただろうし、12歳で世界の選手を相手に練習するのと、日本で日本のトップたちと練習するのでは、成長の速度は変わってきますよね。

大阪なおみ選手だって3歳からアメリカで生活しています。

世界で活躍する日本のテニスプレーヤーは、アメリカでトレーニングを積んだ人は多いです。

アメリカが合わなくて帰国した友人も沢山いましたが、アメリカで成功している人は留学時に目的を持っていました。

希望に満ち溢れてる人、小さいことを気にしない人、性格の明るい人にアメリカという国はピッタリですよ。

インタビューを終えて

英語を話せなかった学生が、アメリカの大学に進学し、博士号を取り、そして先生になってアメリカ人に授業を教える。

絵に描いたような成功の裏には、本人しか知らない苦労と努力があったのではないでしょうか。

現状に満足せず、常に挑戦し続ける岩月さんの姿は、今になっても変わることはありません。

インタビュー中も岩月さんの目は挑戦に燃えて、輝いていました。

現在はYoutubeチャンネル「イワツキ大学」を立ち上げ、留学に関わる情報を発信しています。

最後に岩月さんの言葉を借りて、今回の記事を締めくくりたいと思います。

私の動画は留学を目指している人、それ以上に学校で授業を教える先生に観てほしいです。

なぜなら学校の先生が理解し応援してくれることが、留学を目指す学生にとっていかに大切か知っているからです。

私も同じ教育者として、1人でも多くの日本の若者が海外に興味を持ってもらえるよう、情報発信を続けます。

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ムネ

ネバダ州立大学ラスベガス校卒。現地の会社からE2ビザを取得しラーメン屋店長になるも、2年後にコロナで解雇。ロスに引っ越すもそこで不法滞在となる。日本への一時帰国を経て現在はサンディエゴのレストランで働いています。 Facebookページから最新記事をお知らせ
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